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会長だより ㊴ カメラを止めるな!

(2025年3月26日)

カメラを止めるな!

緑友会長 川本正人(普通科21期)

彼岸が過ぎ、一気に春めいた日曜日(23日)。
ロケ当日のその朝、創立70周年にちなんだ会長メッセージの動画を「校庭一周、ノーカットの長回しで撮ろう」と決めました。
空がすばらしく青かったからです。

ノーカット撮影 開始早々の場面

緑友会は、ホームページの年度内一新を目指しています。ウリの一つが「動画」。会員からの投稿も募ります。
そこに載せる会長あいさつを、「きちんとしたビデオメッセージ」にしたところで、面白味も新鮮味もありません。撮影場に想定していた「みどりホール」が新年度用の教科書と販売物品の山で埋まっていたことも、屋外に目を向かせました。
「ニュース性を加え、二度と撮れないドキュメンタリー風にできないか」、そんなことをボンヤリ考え、目覚めたときに浮かんだのが「校庭一周ロケ」でした。

頭にあったのは、映画「カメラを止めるな!」(略称「カメ止め」)です。前半37分間はノーカットのB級ゾンビホラー。けれど実はこれが生放送番組で、後半はそのメイキングドラマという設定。トラブル続発の中、放送時間内にエンドまで持ち込んでいくスタッフの奮闘がコミカルに描かれます。臨場感、緊迫感、撮り切ったあとの爽快感がたまらない作品です。

スタッフが緑友会館前に集合するのは午後1時。盛り込めそうなネタを急いで整理し、頭にたたき込みました。いつものあいさつ同様、原稿やカンペはナシ。読むと噛(か)むし、第一気持ちが伝わらないからです。
少し早めに登校。正門前で青空に向かってそびえ立つ木々を改めて目にしたとき、出だしのフレーズが固まりました。

「緑のこずえが
4階建ての校舎を追い越しそうです。
校門から続くメイン通りの巨木群。
かつて一面が田んぼだったとは想像もできません。
これも長い歴史が生んだ風景です。
東住吉高校は2024年、創立70周年を迎えました」

登校してくれたスタッフは4人。合流してから「カメ止め」で行かせてほしいとお願いしました。
突然の提案。成否の見えない企画。しかもぶっつけ本番。プロの企画制作マンである撮影担当の10期生は、インパクトのある短いカットを積み重ねるお考え。絵コンテまで作っておられました。
けれど「あとで切り取り編集していただいて構いませんので、まずは一度、カメラを回しっぱなしで撮ってください」と無理を申し上げました。

正門から反時計回りに緑友会館までノーカット、ノー原稿の15分。舌のもつれや言い忘れは多々ありました。けれど、必死に追いかけてくれた撮影担当は一発OK。
「ワンカットでも、中身がしっかりしていれば十分伝わる。シンプルな作りの強さです」
そうおっしゃってくださいました。
(実は「やり直しは、もうイヤや」というお気持ちだったのかもしれませんが。)

本日、その担当者から、テロップなど修正完了のLINEが入りました。「ここで完パケにします」とのことでした。
完成を「完パケ」(完全パッケージ)なんて業界用語で言われると、なんだかそれなりの作品に聞こえますね。

仮題は「カメラを止めるな! 創立70周年・会長校内ツアー篇」。
近日、ひとまずこのままアップされそうです。
ライブ感はあるものの、狙った緊迫感とはほど遠く、ご披露できる完成度でもありません。
せめて「これなら自分も」と、皆様からの動画投稿の呼び水になりますように。

事務局日誌 2025年3月26日(水)◆あて名シール作成◆色紙の飾り付け

◆あて名シール作成
12期生から、同窓生のあて名を印刷したタックシールの依頼がありました。同窓会の案内状を出すためです。パソコンのデータをプリントするのですが、印刷画面とタック用紙が合わず、毎回用紙をカットするというアナログな作業をしています。修正方法、誰か教えてー。(くりべ)

◆色紙の飾り付け
昨年11月に体育館で行われた創立70周年記念公演で、トークショーを繰り広げてくださった卒業生9人。いずれもプロとして活躍する落語家、講談師、お囃子(三味線)の方々です。その際書いてもらった全員の色紙を今日、みどりホールのカウンターに飾りつけました。サインだけでなく、在校生へのメッセージなどが添えられています。(吉田)

 

「会長だより」に寄せられた車 浮世さん(普通科26期生)の メッセージ

時代小説家で江戸料理文化研究家の車浮代さんは、本校の普通科26期生です。今年のNHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺(ばなし)〜」の主人公・蔦屋重三郎の本を立て続けに7冊著しました。
同じ主人公なのに一作ごとに異なる趣向、しかも6冊はこの2月まで半年余りの新刊。放映を機に、これまで有名とは言えなかった快男児の全てを知ってもらいたいという〝べらぼう〟な気迫が、並べた本から立ち上ってきます。創立70周年に、卒業生がライフワークで花を添えてくれたようです。

浮代さんの、人、作品、メッセージは、このホームページの「会長だより」㊱~㊳で3回にわたって紹介。会員通信の「活躍する卒業生」からでも見られます。

以下、会長だより㊳「蔦重の語り部(言葉の巻)」に載せた浮代さんのメッセージです。

◇◇◇ 浮代さんから ◇◇◇

すべての卒期に共通した熱中体験がある。それが東住吉高校の強みです。
「だより」執筆に先立って関東在住の浮代さんに初めてお電話した際も、皆さんの思い出と重なる話がいろいろ。
講演や執筆に加え、夏にロサンゼルスで行う「ネオ・ジャポニズム」の催し準備にもお忙しい中、2時間近くお付き合いくださいました。

母校の共通体験といえば体育祭。浮代さんは1年生の時が「マスコット」、2、3年生は「仮装」でした。仮装とはダンスや寸劇でパフォーマンスを競う団。今の「アトラクション」に当たります。
「テニス部の目立たない生徒でしたけれど、少しは目立ちたい、という気持ちがあったんでしょうね」
祭りのあと、校庭でマスコットを燃やし、皆で泣き、輪になってフォークダンスを踊った時代。
「良かったなあ……。就職した印刷会社で、下版の前、クリエーター、営業、印刷現場の全員がアドレナリン全開で徹夜していた時も、『体育祭みたい』って、ものづくりの達成感を思い返していました」

1年余り前、その体育祭のマスコットやスタンド(観覧席)をなくそうという意見が教員の中で強まったんですよ。理由は「安全ではないかもしれないから」。
「えぇっ! 学年を越えて、自分たちで全部管理して何かを作り上げる。あれほど人間形成に大事な行事はありません。ヒエラルヒー(階級)ができたり、ケンカや恋愛があったり、すべてが貴重。そうした経験の積み重ねが人や文化を育むんです」
そういえば私が同期の家内と結ばれたのも、体育祭で応援団長補佐だった私の法被(はっぴ)作りを、「衣装団」の彼女が担当したのが縁。相手には全くその気がなく、縫ったのも義母だったのに、「ボクを思って♡」とジコチューな誤解をしたのが始まりでした。

で、体育祭。蔦重ならどうします?
「もっと大胆に、全国に校名がとどろくほどにやるでしょうね。資金を集めて、特別マスコットを当日披露するようなサプライズも仕込んで」
長く続いた日本の縮小均衡の流れに押され、私たちの発想まで縮んでいないかと、改めて考えた次第です。

「東住吉温泉」という懐かしい表現も出ました。自由でおおらかな母校を例える言葉です。良く言えば「自主独立」の気風。江戸文化が花開いた蔦重の時代もこうだったのかもしれません。
例えば受験勉強。今のような丁寧な指導やマラソン学習行事はなく、それぞれが覚悟を決めたやり方をし、先生方も半ば黙認。芸大を目指していた浮代さんの場合、午後になると学外のアトリエで絵を学んでいたそうです。そういえば私も、理系クラスなのに史学科志望に転向し、数学や物理の授業中に古典や英語を自習。傍らに立った先生からはただ一言、「おまえ、卒業だけはせえよ」でした。
ぬるま湯に浸るばかりでなかったことは、国公立大合格者数が今の3倍前後だったことにも表われているのでは? 自由の結果に自己責任が伴うことを、自然と学んでいた気がします。

こうした話をしていて感じたのは、浮代さんが「縁」を大切になさることです。
ペンネームを決めた時には、「車といえば映画『男はつらいよ』の車寅次郎。だから車役の渥美清さんのお墓参りにも行ったんですよ、命日に。『これから車を名乗らせていただきます』って」。
江戸料理に話が及ぶと、「日本の八百万(やおろず)の神のことも考えるようになりました。昔は『米一粒にも神様が宿っている』って、食材を端々まで使い切っていましたから」。
さらに、「何かしてくれた人だけでなく、その人を形成した親や先祖、八百万の神々に感謝する『お陰様』、この瞬間から始まる未来に感謝する『今日様』という言葉もいいですね」とも。

最後に在校生へのメッセージをお願いしたら、すぐにメールで届きました。小説『蔦重の矜持(きょうじ)』にあるセリフです。
早速、卒業式を翌日に控えた3年生の緑友会入会式(2月27日)で披露しました。
全文採録します。

「『何事も経験』ってのは本当のことで、人生に無駄なことなんて一つもないぞ。無駄だと思ったとしたら、それは経験を生かさず、無駄にしちまった自分が悪いんだ。様々な経験を積んだ上で、自分の天分を見極めて、それを仕事にして社会に貢献する。それがこの世に生を享(う)けた意味ってもんだ」

様々な「経験」ができたからこそ、うなずく卒業生も多いはず。
そんな母校の「縁」で結ばれた緑友会。
「天分を見極めて貢献する」
蔦重の、いや浮代さんのこの言葉を胸に、私も春を迎えます。

事務局日誌 2025年3月23日(日)◆新HP用の動画ロケ 

◆新HP用の動画ロケ
年度内に一新する緑友会ホームページのうち、創立70周年にちなんだ会長あいさつを動画で収録しました。
映画「カメラを止めるな!」の臨場感を意識し、校庭を一周しながら10分余りのノーカット撮影。「読むと噛(か)むし、第一気持ちが伝わらない」という理由で原稿もなし。登校したスタッフ4人はもちろん、言い出した会長自身も「ホンマにできるの?」と半信半疑でしたが、カメラ役は一発OK。最後に事務局スタッフ2人がチャンネル登録までアピールしました。さて出来映えは……。
不適切な場面があれば急ぎ撮り直します。(川本)

 

事務局日誌 2025年3月21日(金)◆「在校生ご支援金」受付開始 

◆「在校生ご支援金」受付開始
午前中の一般選抜合格発表に続き、午後から合格者説明会。購入した教科書や物品をキャリーバッグに詰めた親子が、にこやかに校内を行き交いました。
後援組織でもある緑友会にとっては、「在校生ご支援金」の呼びかけ初日です。学校にお願いして入学資料とともに趣意書と郵便払込用紙を配付し、8つの教室に集まった親子に会長が放送で支援を要請。現金受付コーナーも正門と通用門に設け、スタッフ7人が緑友会のノボリを立ててお待ちしました。
海外研修補助金、クラブ活動褒賞金、体育祭のスタンド資材購入費など、公費やPTA会費では出せない・足りない経費はいろいろ。みどりホール整備やICT機器全教室配備のような大型支援もありました。
受付コーナーは入学式でも開設。しっかり集めて、後輩たちに思い切りいろんな体験をしてもらいましょう。(川本)

事務局日誌 2025年3月19日(水)◆前会長の「こども食堂」◆卒業写真  

◆前会長の「こども食堂」
緑友会前会長の坂田繁数さん(普通科12期)が来局されました。2017年から月に一度「こども食堂」を開催されています。立ち上げ話から様々な人たちとのエピソードまでいろいろ聞かせていただき、感動しました。
お金の話もありました。各種団体から寄付は受けていますが足が出ることも。その際補うのはポケットマネーだそうです。「趣味にはお金が掛かるもんや」と笑顔でおっしゃいます。好きなことをしてるからと。
たくさんの人たちを助けている偉大な坂田先輩。心から応援してます。(くりべ)

◆卒業写真 
🎵悲しいことがあると
開く皮の表紙〜
卒業写真のあの人は
やさしい目をしてる〜

みなさん卒アル開いてみることありますか?
綠友会事務局には1期生から2月28日に卒業した68期生(芸文30期生)までの卒業アルバムがずらっと保管されています。
近年のものは綠友会が業者より購入していますが、古い年度のものは同期生で結婚されたご夫妻より一冊を寄贈いただいたものもあると聞いています。
同窓会開催の相談に来られた卒業生の方々に「ここにアルバムありますよ」と見ていただくこともあります。
本校では卒業生の教員もおられ、『先生』の『高校生』当時のお顔も見ることができます。
〝青春の1ページ〟
あなたも卒業アルバム、一度開いてみませんか?(しばたに)

 

会長だより ㊳ 蔦重の語り部(言葉の巻)

(2025年3月16日)

蔦重の語り部(言葉の巻)

緑友会長 川本正人(普通科21期)

名だたる絵師や作家を発掘した蔦屋重三郎ですが、彼自身が発した言葉の記録はほとんどありません。プロデューサーは他の人を売り出すのが仕事、自分は脇役――という姿勢に徹していたかのようです。
そんな蔦重の生き方を、まるごと「言葉」に超訳し、現代人への教えを幾重にも導き出したのが車浮代さん(普通科26期)。
締めの今回はそんな近著2冊と、浮代さんからのメッセージをお届けします。

【生き方に学ぶ】(2冊)

◆『仕事の壁を突破する 蔦屋重三郎50のメッセージ』
(飛鳥新社2024年12月)

説明不要。ストレートに項目を挙げます。
<01 自分に何ができるのか、わからないあなたへ――人様に与えられる「天分」は、探せばきっと見つかる><02 自信がないあなたへ――とにかく動けば、それは「経験」になる。「経験」がやがて自信に変わる>、最後は<今の自分を誇れるか。今の自分に握手できるか>。
それぞれに蔦重らの行動と浮代さんの解説付き。「若い人に読んでもらいたい」と著者が願う一冊です。

◆『蔦屋重三郎の慧眼(けいがん)』
(2025年2月、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

最新作は1㌻1エッセンスの〝教条集〟。171項目を「慧眼」「商売」「人間関係」「生き様」「色と通」「時代」の章に分け、さらに戯作者や狂歌師らの蔦重評を原文と訳文で収めています。
この出版社の人気シリーズに「超訳」ものがあります。ニーチェをはじめ古今東西の賢人・偉人の思想を1㌻1エッセンスで編んだもので、『慧眼』も同じ体裁。
蔦重の軌跡をシリーズ入りさせるまでに再構成した浮代さんの慧眼と力量、さすがです。

 

◇◇◇ 浮代さんから ◇◇◇

 

 すべての卒期に共通した熱中体験がある。それが東住吉高校の強みです。
「だより」執筆に先立って関東在住の浮代さんに初めてお電話した際も、皆さんの思い出と重なる話がいろいろ。
講演や執筆に加え、夏にロサンゼルスで行う「ネオ・ジャポニズム」の催し準備にもお忙しい中、2時間近くお付き合いくださいました。

母校の共通体験といえば体育祭。浮代さんは1年生の時が「マスコット」、2、3年生は「仮装」でした。仮装とはダンスや寸劇でパフォーマンスを競う団。今の「アトラクション」に当たります。
「テニス部の目立たない生徒でしたけれど、少しは目立ちたい、という気持ちがあったんでしょうね」

祭りのあと、校庭でマスコットを燃やし、皆で泣き、輪になってフォークダンスを踊った時代。
「良かったなあ……。就職した印刷会社で、下版の前、クリエーター、営業、印刷現場の全員がアドレナリン全開で徹夜していた時も、『体育祭みたい』って、ものづくりの達成感を思い返していました」

体育祭で男子生徒と制服を交換
した浮代さん(左の〝男前〟)

1年余り前、その体育祭のマスコットやスタンド(観覧席)をなくそうという意見が教員の中で強まったんですよ。理由は「安全ではないかもしれないから」。
「えぇっ! 学年を越えて、自分たちで全部管理して何かを作り上げる。あれほど人間形成に大事な行事はありません。ヒエラルヒー(階級)ができたり、ケンカや恋愛があったり、すべてが貴重。そうした経験の積み重ねが人や文化を育むんです」
そういえば私が同期の家内と結ばれたのも、体育祭で応援団長補佐だった私の法被(はっぴ)作りを、「衣装団」の彼女が担当したのが縁。相手には全くその気がなく、縫ったのも義母だったのに、「ボクを思って♡」とジコチューな誤解をしたのが始まりでした。

で、体育祭。蔦重ならどうします?
「もっと大胆に、全国に校名がとどろくほどにやるでしょうね。資金を集めて、特別マスコットを当日披露するようなサプライズも仕込んで」
長く続いた日本の縮小均衡の流れに押され、私たちの発想まで縮んでいないかと、改めて考えた次第です。

「東住吉温泉」という懐かしい表現も出ました。自由でおおらかな母校を例える言葉です。良く言えば「自主独立」の気風。江戸文化が花開いた蔦重の時代もこうだったのかもしれません。

例えば受験勉強。今のような丁寧な指導やマラソン学習行事はなく、それぞれが覚悟を決めたやり方をし、先生方も半ば黙認。芸大を目指していた浮代さんの場合、午後になると学外のアトリエで絵を学んでいたそうです。そういえば私も、理系クラスなのに史学科志望に転向し、数学や物理の授業中に古典や英語を自習。傍らに立った先生からはただ一言、「おまえ、卒業だけはせえよ」でした。

ぬるま湯に浸るばかりでなかったことは、国公立大合格者数が今の3倍前後だったことにも表われているのでは? 自由の結果に自己責任が伴うことを、自然と学んでいた気がします。

こうした話をしていて感じたのは、浮代さんが「縁」を大切になさることです。

ペンネームを決めた時には、「車といえば映画『男はつらいよ』の車寅次郎。だから車役の渥美清さんのお墓参りにも行ったんですよ、命日に。『これから車を名乗らせていただきます』って」。

江戸料理に話が及ぶと、「日本の八百万(やおろず)の神のことも考えるようになりました。昔は『米一粒にも神様が宿っている』って、食材を端々まで使い切っていましたから」。

さらに、「何かしてくれた人だけでなく、その人を形成した親や先祖、八百万の神々に感謝する『お陰様』、この瞬間から始まる未来に感謝する『今日様』という言葉もいいですね」とも。

最後に在校生へのメッセージをお願いしたら、すぐにメールで届きました。小説『蔦重の矜持(きょうじ)』にあるセリフです。
早速、卒業式を翌日に控えた3年生の緑友会入会式(2月27日)で披露しました。
全文採録します。

「『何事も経験』ってのは本当のことで、人生に無駄なことなんて一つもないぞ。無駄だと思ったとしたら、それは経験を生かさず、無駄にしちまった自分が悪いんだ。様々な経験を積んだ上で、自分の天分を見極めて、それを仕事にして社会に貢献する。それがこの世に生を享(う)けた意味ってもんだ」

様々な「経験」ができたからこそ、うなずく卒業生も多いはず。
そんな母校の「縁」で結ばれた緑友会。
「天分を見極めて貢献する」
蔦重の、いや浮代さんのこの言葉を胸に、私も春を迎えます。

 

会長だより ㊲ 蔦重の語り部(書の巻)

(2025年3月8日)

蔦重の語り部(書の巻)

緑友会長 川本正人(普通科21期)

NHK大河ドラマ「べらぼう」の主人公、「蔦重」こと蔦屋重三郎。日本文化を代表する浮世絵師や戯作者らを次々と世に出した江戸時代の敏腕プロデューサーです。
その蔦重を、7冊立て続けの著書発刊で現代にプロデュースした車浮代さん(普通科26期)。短期間に、しかも一作ずつ異なる切り口で書き分けました。
尋常ではない筆力、企画力、知識量に圧倒されながら、さわりだけ紹介します。
独断の読み込み、平にご容赦。

【小説】(2冊)

『蔦重の教え』
(飛鳥新社2014年2月、双葉文庫21年3月)

小説デビュー作。私にとっても、今年の大河ドラマが「蔦重」と知った昨秋、「誰?それ?」と最初に手にした蔦重本です。55歳で依願退職を強要された広告代理店営業マンが、稲荷神社で立ちションをしたばかりにタイムスリップ、江戸の中期、1785年の遊郭・吉原で蔦重に拾われ、人生の極意を学んでいくーーという物語。「実用エンタメ小説」という裏表紙の見慣れないコピーにもひかれました。

<本書の特長その1> 読みやすい評伝であること。空想物語でありながら、蔦重の業績、登場人物、時代背景など骨組みはホンマもんです。
原作なし、脚本家オリジナルの大河ドラマと見比べると楽しさ倍増。例えば蔦重を世に出したガイド本「吉原細見(さいけん)」。男色家で知られた万能の天才・平賀源内が序文を書いて世間を驚かせました。男色の源内がなぜ女色の街に肩入れを?
ドラマ(第2回)では、小芝風花さん演じる花魁(おいらん)が源内の愛した歌舞伎の女形に扮(ふん)して心を開く、というナゾ解き。
一方、浮代さんの作品でも源内と花魁の深い仲がカギになります。
けれどそれを書くとラストのネタバレ。結末は本書でお確かめください。

<特長その2> 江戸の人々や街を活写。長年の江戸文化研究が生きています。個人的には、混浴銭湯・湯屋のくだりに「へ~ぇ!」でした。

<その3、最大の特長> 蔦重のセリフが格言・警句になっていること。思わず線を引いてしまいます。巻末には「教え」のまとめ付き。自己啓発書に挙がるはずです。
叱咤(しった)激励の教訓が多い中、冷徹さにドキッとする場面も。例えば「人生ってのは知恵比べだ。考え抜いた方が勝つ。知恵を絞った奴に騙(だま)されたんなら、引っかかった方が負けなんだよ」というセリフ。悔しければ「騙し返す」「用心する」「笑い飛ばす」という処方せんの選択肢付きです。
大国の横暴が目に余る今の国際社会に当てはめるとしたら、さて……。

『蔦重の矜持(きょうじ)』
(双葉社2025年1月)

『教え』の続編です。55歳の時空超えから20年。現代に戻りフランスで日本食堂を開いて成功した主人公が、近未来(2034年?)から1794年(江戸を離れて約8年後)に孫を連れてタイムスリップ。すでに人々の行く末や作品群の価値を熟知している主人公。蔦重らを待つ悲運を何とか回避できないかと試みます。

質素倹約を掲げる「寛政の改革」で色の数や題材を制約してくる幕府と、蔦重・作家連合軍との攻防戦。描かれるのは、蔦重らの意気込みの背景、創作のヒント、役者絵などを大量に描いて10か月で消えた東洲斎写楽の正体、といった作品・作家のナゾ解きの比重が大です。
フィクションなのに「せやったかも」と思わせるのは浮世絵専門家のなせる技。ちりばめた昨今の世相や映画の感想、食材やお店情報などは、浮代さん自身の声なのでしょう。
コロナ禍やAIといった「現代」も展開に関わってきますが、これまたネタバレ。本書でご確認ください。

【知る・見る・味わう】(3冊)

『蔦屋重三郎と江戸の文化を作った13人』(PHP文庫2024年8月)

史実に基づいたリアルな時代と人模様。ものすごくわかりやすいです。江戸時代のあれこれを現代風に置き換え、蔦重を「縛りが多いと燃えるタイプ」、郊外に移転した吉原を「ちょっと遠いけれど、わざわざ行く価値のあるアミューズメントスポット」と表現。田んぼに突然できたその不夜城を「千葉県にある東京ディズニーランド」「砂漠の真ん中にそびえ建つラスベガス」に例えたりもしています。

PHPは松下幸之助が「企業の知の拠点」を目指して創業した出版社。文庫はノンフィクションが中心です。そこに加わるだけあって、軟らかい文章ながら中身は硬派。
ドラマのガイド本として私のイチオシです。

『Art of 蔦重』
(笠間書院2025年1月)

蔦重がそれぞれの時期に出した浮世絵などのカラー作品集。鑑賞のポイントだけでなく、当時の世相や流行などを織り込み、蔦重の人材発掘や売り込みの戦略までビジュアルに理解できるぜいたくなつくりです。
見て楽しむならこれをどうぞ。

『居酒屋蔦重』
(オレンジページ2025年1月)

江戸料理研究家兼小説家の遊び心が生んだ「江戸レシピ&短編小説」集。蔦重が空想の居酒屋に浮世絵師や戯作者らを招き、才能の発掘、引き抜き、口説き、励ましをしていきます。順に招かれた客は計11人。それぞれに合わせた〝おもてなし〟のお品書き通りの写真に作り方まで添えたおいしい一品です。
「読んで作って食べて呑(の)む!」。
こんな蔦重本、誰にも書けません。

……と、ここまでで5冊。
残る2冊には、蔦重からの「メッセージ」が詰まっています。

浮代さんからのそれと合わせ、次回は「言葉の巻」。
体育祭など高校時代のお話もたっぷり入れます。

 

事務局日誌 2025年3月5日(水)◆合格発表の準備 

◆合格発表の準備
21日に行われる合格発表の準備作業をしました。なんで緑友会がって? その日午後からの合格者説明会で保護者に配られる書類の中に、緑友会からの「在校生支援金のお願い」や「会報」を同封してもらうためです。
緑友会は今や、同窓会だけでなく後援会の役割も担っています。そんな緑友会のこと、新入生たちに知ってもらえたらいいな。(くりべ)

◆吹奏楽部
事務局は緑友会館3階にあり、隣の広間ではいつも吹奏楽部が練習しています。9日(日)に芸能文化棟ホールで開く第48回定期演奏会を目前に、今日も仕上げににぎやかです。パンチの効いた曲、心和む曲。バラエティーに富んだ選曲で、当日が楽しみ。
練習のあとは、当日案内の書き物などお客様を迎える準備にも余念がありません。4月にはたくさんの新入部員が加わるといいですね。(しばたに)

◆12日(水)は事務局休み
事務局には毎週水曜日にスタッフが詰めていますが、来週12日は入学試験があるため閉局します。ご用件はメールでお願いします。

 

会長だより ㊱ 蔦重の語り部(人の巻)

(2025年3月1日)

蔦重の語り部(人の巻)

緑友会長 川本正人(普通科21期)

書名に「蔦重」と冠した7冊。同じ著者で同じ主人公、なのに一作ごとに異なる趣向、しかも6冊はこの半年余りの新刊です。今年のNHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺(ばなし)〜」の放映を機に、これまで有名とは言えなかった快男児・蔦屋重三郎の全てを知ってもらいたいという〝べらぼう〟な気迫が、積み上げた本から立ち上ってきます。
手がけたのは車浮代さん。本校の普通科26期生です。母校の創立70周年に、卒業生がライフワークで花を添えてくれたよう。
浮代さんの、人、作品、メッセージを3回にわたって紹介します。

衣食住とも「江戸」が似合う車浮代さん
(2024年に開いた「うきよの台所」で)

喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎といえば世界に知られた浮世絵師。戯作者の曲亭馬琴は『南総里見八犬伝』、十返舎一九は『東海道中膝栗毛』でおなじみです。
彼らの才能を見出し、育て、世に出る道筋を付けたのが「蔦重」こと蔦屋重三郎(1750~1797年)。江戸中期から後期にかけて、出版社兼書店である版元として活躍し、日本のメディア産業やポップカルチャー(大衆文化)の礎を築きました。
幕府公認の遊郭「吉原」で生を受け、両親に置き去られたその街で、知恵と汗を絞って面白さを追求、お上に目を付けられても痛快に乗り切って行く。
そんな波瀾万丈の物語は、ドラマで主演の横浜流星さんにたっぷり見せてもらうとして、ここではまず、蔦重を生き生きと現代によみがえらせた浮代さんの「夢噺」から。

著者プロフィール風にまとめると……。

時代小説家、江戸料理文化研究家。大阪芸術大デザイン学科卒後、東洋紙業のアートディレクター、セイコーエプソンのデザイナーを経て、映画監督新藤兼人にシナリオを学ぶ。一方で江戸時代の料理を研究し、1200種類以上を再現。2024年春、江戸風キッチンスタジオ「うきよの台所」をオープン。著書多数。NHK「チコちゃんに叱られる!」などテレビ・ラジオ出演多数。江戸料理の動画配信も行っている……。

これを、浮代さんから電話でお聞きした話や、雑誌などで明かされたエピソードで肉付けすると……。

国語と美術が得意な少女で、アートディレクターやコピーライターといったカタカナ職業に憧れて芸大に進学。ガールズバンドを組み、カーリーヘアに網タイツ姿でベースを担当。大阪で就職後も続けていたが、やがて解散。
心に穴が開いていた時に、あべの近鉄百貨店で見たのが浮世絵版画の実演。仕事で訪れたその催しで、彫師(ほりし)や摺師(すりし)の超絶技法、粋な江戸弁、出版社兼書店の版元システムなどに感銘を受け、浮世絵と江戸時代、そして「蔦重」にのめり込んで、やがて講演を頼まれるまでに。
一方、結婚を機に移り住んだ長野県松本市で夫や親せきから習ったのが郷土料理。塩、味噌、しょうゆが調味料、干したり漬けたり発酵させたりが保存法。これがのちの江戸料理研究につながっていく……。

こうした仕込みの季節を経て、いよいよ夢の幕が上がり始めます。

40歳を過ぎて本気で目指したのは、猛勉強した江戸文化の知識を生かせる時代小説家。構成力を磨くため通信教育でシナリオを学び、その後月2回上京して新藤監督に師事、シナリオ作家協会の大賞を受賞しました。これを機に単身上京。ガイド本『大江戸散歩道』を準備中だった作家・エッセイストの柘(つげ)いつかさんに出会い、アシスタントに。
「江戸料理のレシピ本を書いてみたら?」と勧めたのはそのいつかさん。老若男女が楽しめる「食」、けれど書ける人の少ない「江戸料理」に的を絞ってはどうかというのです。プロの料理人でもないのにまさかのジャンル。けれど、江戸料理のベースは松本で覚えた郷土料理と同じ。何とかなるかも。
2010年、狙い通りの本を上梓。浮世絵の「浮世」を女性名にアレンジしたペンネーム「車浮代」は、江戸料理研究家として知られていきました。

いつかさんによる浮代さん改造計画も待ったなし。「江戸文化を語るのに説得力がない」と黒づくめのファッションから着物姿に変身、コテコテの関西弁も落語の師匠に付いて東京言葉に改め、現在メディアで視聴する浮代さんになりました。

「とにかく動く」うち、またも良縁を得ます。飛鳥新社の編集長畑北斗さん。ムツゴロウこと畑正憲さんのおいで、自己啓発の大ベストセラー「夢をかなえるゾウ」を世に出した人です。当時は無名に近い蔦重をどう描くか。畑さんから示された方向は「自己啓発書・ビジネス書としても役立つ小説」でした。
それから2年。浮代さんは、経営者ら成功した約50人にインタビュー。さらに自己啓発のプロで、浮代さんが「女蔦重」と呼ぶいつかさんの教えを蔦重の軌跡に重ね、人物像を構築していきました。

こうして書き上げたのが、実用エンタメ小説『蔦重の教え』です。叱咤激励のセリフが奥深く、2014年からの売り上げは文庫を含め7万部。実績が引き寄せたたように、2023年、NHKが蔦重の大河ドラマ化を発表しました。
浮代さん、怒とうの執筆の始まりです。

次回はその作品群を取り上げます。