(2023年7月26日)
ダイヤモンドの万華鏡
緑友会長 川本正人(21期)
クールな若者が増え、「青春」という言葉が遠くなった……と寂しがっていたのは大間違いでした。この日曜日に招かれた芸能文化科第29回卒業発表会。マスクを外した素顔の3年生31人から噴き出したのは、まさに「青春」の熱風だったのです。
無観客だったコロナ禍を経て4年ぶりの通常開催。芸文棟の客席100余りは保護者らでいっぱいでした。舞台は正味3時間。「長いかな」と思っていたのに、幕が開くと全く目が離せません。「なんでやろ?」。理由がわからないまま、舞台がどんどん進みます。完成度の高さ。それもあるでしょう。古典芸能から演劇、幕間のドラマ映像やダンスまで、多彩な演目を一気に楽しめる異例の構成。これも理由でしょう。お笑いやダンスを披露していた生徒が、次には居住まいを正して和服で和楽器。この動と静の対照や可能性の豊かさに、うなったことも確かです。
けれど一番の理由は、そういう技術的なものとはちょっと違う……。モヤッとしていたら、舞台の生徒と目が合いました。これが実に楽しそう。演じているという気配もない、ひたむきで素直な喜びの表情です。そういえば、最初の演目「筝曲」を弾き終えて客席に向けた顔・顔・顔の晴れやかさ、続く日舞で和傘を手に「学園天国」をテンポよく踊った躍動感、幕間の体当たりコント、思えばどれも「今、最高に幸せです」という生徒たちのメッセージにあふれていました。これは、舞台という形で表現した青春時代の集大成。そう思うと、全員で一糸乱れぬ音曲を奏でるまでにかいた「汗」、できない悔しさで流した「涙」、励まし合い、ぶつかり合って育んだ「友情」まで見えるようでした。
終盤、そんな生徒たちの気持ちを、ストレートに表す演目がありました。3年生が一人ずつ手紙を読む「私たちの言葉」です。「家族へ」「10年後の自分へ」「芸文で学んだこと」の3つの題にほぼ10人ずつ、全員合わせて15分間。家族には「毎朝のお弁当」(これが意外と多かった)「話を聞いてくれたこと」「いつも味方でいてくれたこと」への感謝。10年後の自分には「今みたいに笑っていますか」「芸文の仲間と出会って今があることを大切に」「やりたいことをいっぱいやって」などの励まし。芸文で学んだことでは「感動は挑戦しないと生まれない。努力すれば感動も大きい」「認めてくれる仲間が自信をくれた」「可能性はいっぱい」「やりたいことに突き進む」といった力強い言葉。
そして多くの生徒が、読み終えたあと、客席と裏方の後輩たちに向けて同じ言葉を叫びました。「大好き!」と「ありがとう!」です。感極まってむせび泣く生徒も少なくなく、保護者でない私までウルッ。自分の気持ちを、こんなに真っすぐ、正面切って次々とぶつけてくる高校生たちって、います?
この学年は、コロナ禍で芸能文化の担い手たちの暮らしが不安定になったころに入学しました。将来に不安を覚えた生徒やご家族もおられたと思います。それだけに、「今、最高の景色が広がっています。制限のあった生活も全部、私たち31人でしか過ごせなかった、かけがえのない青春です」ときっぱり言いきった総合監督の女子生徒の、涙をこらえた終演口上が胸を打ちました。
「生徒はキラキラ輝くダイヤモンドのかけら。舞台はその生徒たちが集まった万華鏡」。開幕前に萩原美由紀校長がなさったあいさつです。たくさんの個性がきらめきながら、二度と生まれない模様を刻々と描き出す。一瞬の輝きに人々を引き込む。なるほど、ここは青春のカレイド・シアターやったんや。
一緒に見終えた緑友会の会報担当スタッフ(10期)も「ええ子たちでしたねえ」と感慨深げ。帰宅後すぐに送信してこられたのが上の写真です。熱風の一端をお感じください。