(2023年8月19日)
40年目のメッセージ
緑友会長 川本正人(21期)
40年前の旧暦七夕、1983年8月15日に、彦星(アルタイル)に向けて、米国の電波望遠鏡からメッセージが送信されました。地球の数字や元素、太陽系、生物の進化、DNAの構造などを表した13枚の画像と子どもたちの音声です。地球外知的生命体の存在を仮定して週刊少年ジャンプ(集英社)が企画し、東大東京天文台(現国立天文台)教授らが実施。このような試みを日本人が行うのは初めて、世界でも2例目だったそうです。
そして今年の旧暦七夕、8月22日に、返信の受け取りが試みられます。協力するのは長野県にある宇宙航空研究開発機構(JAXA)の観測所。ふだんは小惑星探査機「はやぶさ2」などと通信しているパラボラアンテナを、1時間だけ彦星に向けるとか。彦星との距離は17光年。地球からのメッセージが2000年ごろに到達し、彦星人が内容を解析、返信内容を決めた後、電波を送り続けていれば、受診できる可能性はゼロではない……という、新聞で読んだお話です。
もし受信できたら、映画「コンタクト」(97年)のように科学、宗教、政治を巻き込んだ騒ぎになり、「地球人」の自覚が大勢に芽生えるかも。奇しくもアルタイルの星言葉は「空想的で現実的」とか。宝くじに似た期待を抱きます。
彦星に発信された「人間」と「女性の顔」の画像
発信された83年、国内では東京ディズニーランドの開園、家庭用ゲーム機「ファミリーコンピューター」の発売などがありました。貧しい農村に生まれながら経営者として成功する女性を描いて国際的ブームとなったNHK連続テレビ小説「おしん」もこの年の放映です。日本はその後、バブル崩壊や相次ぐ天災に見舞われるのですが、全体としては今も平和と繁栄の中にあると思います。けれど同時に、「40年分進歩したのかな?」というもどかしさも覚えるのです。
世界に目を転じると、83年にはソ連による大韓航空機撃墜事件や米軍のグレナダ侵攻、前年には「兵器の実験場」と言われたフォークランド紛争がイギリスとアルゼンチンの間で起きています。その後、ソ連解体やEU発足で冷戦に終止符が打たれるかと思ったら、「民族」や「国家」が争う時代に逆戻り。技術が発達した一方、温暖化なども進みました。地球人はどうも40年前と変わっていない。彦星人にはそう見えるかもしれません。
緑友会はどうでしょう。母校創立30周年の84年、会報4号(2㌻)が発行されました。前号から17年ぶりで、「同窓会活動を盛り上げていきたい」と、この年からの毎年発行を宣言しています。70周年を前にした私たちも思いは同じ。会報に加え、時代に合わせて同窓会システムやホームページといった電子技術の本格導入にも踏み切りました。
40年前に成人となった25期生は今年度、還暦同期会を開きます。ほかにもコロナ禍で控えられてきた同期会、同窓会、OB・OG会が企画され始めました。同窓会システムやホームページは、広報や所在不明者探し、出欠確認などに早速利用されています。
若いころの友人との再会で不思議に思うのは、会わなかった間の互いの人生がひとまずカットされ、過去と現在の時間軸がすんなり一本になることです。彦星に送信された画像のように素朴でシンプルな、隠しようのない「素」の自分で接するからかもしれません。先ほど触れた会報4号で、当時の会長が「同窓」という言葉の由来を原典の漢文を引いて解説し、「同じ学問をする者を同窓と言う。利害関係を越えた同志の結びつきである」と述べておられました(どこぞの会長とは格調が違いますわ)。なるほど、同じ学び舎で育んだ同窓の絆は、その後の個人に付いて回るようになった様々な要件とは無関係です。
だとすると、40年前と変わらずにいることが大切なこともある。その当たり前に思いが至り、気分が少し晴れました。
同窓のみなさんが心のパラボラアンテナを開き、時空を超えたメッセージを受信・発信できるよう、夏の星空に祈ります。